住まいの雑学
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西村 祥子
2011年9月19日 (月)

住まいに息吹を与える職人たち<3>強くて優しい鉄の芸術家「鍛冶師」

住まいに生き物のような息吹を与える「職人」のワザは、入居後の住み心地を左右する大切な要素のひとつ。しかし実際には、なかなか職人と直接顔を合わせる機会はないもの。今回は、鍛冶師の岡本友紀さんを訪ね、仕事ぶりや住まいに対する思いについて、直接話を聞いてみた。

■叩いたり、丸めたり、くっつけたり。鉄に命を吹き込む鍛冶師のワザ
鉄の板や棒などの、堅くて無機質な鉄材に手を加え、命を吹き込むのが鍛冶師の仕事だ。「材料となる鉄材のサイズも、作業の工程も、作品によってまちまち。完成をイメージしながら、少しずつ作業を重ねていきます」と岡本さん。「鍛冶師と言えば、真っ赤な鉄をトンテン叩いているイメージだと思いますが、叩く作業にもいろいろな目的があるんです。鉄板を薄くしたり、鉄棒を長くしたり。カーブを描く柔らかいラインも、叩くことでつくります。ほかにも、模様をつけたり、風合いを出したりするために叩くこともありますね」。もちろん、叩く作業以外にも工程は多い。別々につくったパーツを溶接したり、けがをしないようにヤスリをかけたり、サビ加工や風合いのために塗装することも。「新しい作品をつくるときは、作業の進め方も試行錯誤の連続。どうすればイメージ通りの作品ができるか、常に考えながら仕事をしています」

住まいに息吹を与える職人たち<3> 強くて優しい鉄の芸術家「鍛冶師」

左/制作の様子。熱した鉄材を叩いて丸めていく 右/鉄を叩きやすいよう、身長に合わせてつくった作業台

鍛冶の仕事は体力勝負。叩く作業が続くと、腕が上がらなくなることも
男性のイメージが強い鍛冶の仕事。その仕事はやはり「体力勝負」となる部分も多い。「高温の鉄を扱うので、室温自体も上がります。正直、夏場の火入れは避けたいですね(笑)」と岡本さん。さらに、その状況下で、黙々と鉄を叩く作業が続く。「大きな作品のときなどは、何日も叩く作業が続くので、さすがに腕が上がらなくなることもあります」。鉄を伸ばすためだけの作業なら、エアハンマーを使用する職人も多いという。「それでも私は叩く作業が大好き。作業は大変ですが、直線的な鉄の塊が、生き物のように曲線的な形を成していく過程こそ、この仕事の醍醐味だと思います」

■家づくりに関わる仕事では、装飾性と共に安全性への配慮が不可欠
家づくりにおいては、鉄製品が使われるのは、階段やベランダの手すり、家具や照明、外まわりのフェンスや表札など。重量のある鉄だからこそ、「家に関わる仕事で、最も気を付けているのは安全性です」と岡本さん。「手すりなどの場合は、住まいの設計者の方と話して、構造部分の強度を確認します。家具や照明などの場合、小さなお子さんのいる家庭では、自立性や落下防止なども重要になりますよね」。一方、「外まわりならサビ止めなどの加工も重要ですが、室内で使うものならば、無塗装の風合いも、経年変化のサビも、1つの表情として楽しめるはず。使う場所や目的を考慮し、まわりに使われている建材との相性も考えて、デザインするよう心がけています」

住まいに息吹を与える職人たち<3> 強くて優しい鉄の芸術家「鍛冶師」

左/曲線が美しい階段の手すり 右/店舗の窓を飾る枠装飾

■作品が完成したときは「長くかわいがってもらってね」と嫁に出す気分
「すべてが手作業なので、作品1つ1つがかわいいわが子のようなもの。つい必要以上に手をかけたくなります」。しかし、「やり過ぎは美しくない」と岡本さん。作業を続けるなかで、「まぁ、うん」と自然に思えた瞬間、つくり込むことをやめる。「技術を押し付けるのではなく、依頼者が気に入ってくれた『雰囲気』を大事にしたいんです」。そして、「娘を嫁に出す母の気分」で作品を納品。「長くかわいがってもらってね」と、これまでにも多くの作品を送り出してきた。「かつて作品を納品したお宅で、それが今でも大事に使われているのを見ると、本当にホッとします。これからも、長く愛情を持って使い続けてもらえるものを、つくっていけたらうれしいですね」

■作品への反応を直接見られる作品展が、ステップアップへの意欲に
岡本さんは、住宅などの仕事のほかにも、作品展のための制作にも力を入れている。地元広島はもちろん、東京などでも多くの作品展を開催してきた。「作品展は、制作を含め、準備にかなりのパワーがかかります。『やる!』と意気込んで臨まないと実現できません」。だからこそ、得るものも多いのだという。「作品展は、たくさんの人たちに、自分の作品を見てもらうチャンス。先入観なく作品を見て、どういう反応をしてくれるのか、いつも楽しみにしています」。その反応は、良いときもあれば、イマイチというときも、もちろんある。しかし、「反応が良くても悪くても、それが次の仕事や作品への意欲につながるんです」と岡本さん。存在感のある鉄の造作は、こうして次々に進化を続けていくのだ。

住まいに息吹を与える職人たち<3> 強くて優しい鉄の芸術家「鍛冶師」

照明作品の一例。鉄とは思えない繊細な細工も多い

■取材した職人
住まいに息吹を与える職人たち<3> 強くて優しい鉄の芸術家「鍛冶師」岡本友紀さん
一般企業に勤めていたころに鍛冶の仕事と出合い、光村孝治氏に師事。現在は広島県廿日市市のアトリエで制作を続け、店舗・住宅関係の仕事のほか、広島をはじめ、東京などでも作品展を行っている。

la forgerone
HP:http://forgerone.com/

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